本朝コスプレ喫茶ことはじめ?
〜江戸時代の茶売りの逸話〜

 以前に「明治時代のコスプレ喫茶?」と題した記事をアップしましたが、今度は更に江戸時代まで遡って、もしかしたら日本最古かもしれない? 「コスプレ」喫茶と呼べそうな商売のご紹介をしたいと思います。
 もっともそれはコスプレしているのが女性ではなく男なのですが、最近は「メイド」喫茶に限らず「執事」喫茶とかも増えてきているようですので、この話を紹介するのも全くの見当違いではありますまい(ということにしておいてください)。

 出典は、1688年に発行された井原西鶴『日本永代蔵』の巻四より「茶の十徳も一度に皆」です。引用元は小学館の日本古典文学全集第40巻『井原西鶴集(3)』(1972初版、1988第16版)です。
 井原西鶴の作品は町人の生活を生き生きと描いたことで知られますが、他にも特徴として諸国の様々な情報を盛り込むこと、矢数俳諧に代表されるような数字 への強いこだわりがあること、などが指摘されています。となれば、以下に掲げる話も、全くの駄法螺というわけでもありますまい。
越 前の国敦賀の・・・(中略)・・・町はづれに、小橋の利助とて、妻子も持たず口ひとつをその日過にして才覚男、荷ひ茶屋しをらしく拵へ、その身は玉だすき をあげて、くくり袴利根に烏帽子をかしげに被き、人よりはやく市町に出で、「えびすの朝茶」といへば、商人の移り気、咽のかわかぬ人までもこの茶を呑み て、大かた十二文づつなげ入れられ、日ごとの仕合せ、程なく元手出来して、葉茶見世を手広く、その後はあまたの手代をかかへ大問屋となれり。

※語註(出典より抜粋)
荷ひ茶屋:茶釜・茶器などをかついで煎茶を売り歩く商売。一服一銭。
玉だすき〜をかしげに被き:恵比須神の服装をまねた主人公の姿。
「えびすの朝茶」:朝恵比須を信仰する町人向けに、主人公がその扮装で売ることから名づける。
十二文づつ:恵比須神への賽銭は十二燈(十二文)が普通。
葉茶見世:煎茶用の葉茶を売る店。
大問屋:敦賀で本問屋と称する一流の大問屋。

 つまり、恵比須のコスプレをして朝茶の行商をしたら、恵 比須だけに十二文もみんな払ってくれた(普通は一服一銭なのに)ので、やがて元手が出来て大問屋になったというお話ですね。コスプレによる付加価値をつけ ることで人々の心を摑み、大きな利益を上げることに成功した、という点で、昨今流行る「コスプレ喫茶」の諸店も、祖と仰ぐべき偉大なパイオニア、とでもい うところでしょうか。

 もっともこの話には続きがあって、というかその部分が本題なのですが、主人公利助はその後「道ならぬ悪心発(おこ)りて」お茶を飲んだ後の茶殻を染料用 と偽って買い集め、それを新品のお茶に混ぜて売り、一時は繁盛しますが、天罰が下ったのか「この利助俄に乱人(注:狂人)となりて」、自分で自分の悪事を 喋り散らし、ついに体も弱って死んでしまいます。食品偽装表示のさきがけですね。
 さらに利助は死の床でも金銭にすさまじい執着を見せたので、店の者も恐れて近寄らず、死んでからも親類は怖がって遺産を受け取らず(この辺の描写は面白 いので、興味を持った人は原文に当たってください)、結局檀那寺の坊主に渡したところ、「これを仏事にはつかはずして、京都にのぼり野郎あそびに打ち込 み、又は東山の茶屋のよろこびとぞなれり」・・・あれ、最後はやおいネタで終わってしまいました。
 まあとにかく、現在の「コスプレ喫茶」業態の諸店が、まかり間違ってもこんな発展をしないことを祈ります。西鶴も本篇をこう結んでおりますので。
世間にかはらぬ世をわたるこそ人間なれ。
※本稿は墨東公安委員会のブログ「筆不精者の雑彙」にて2006年11月3日に執筆した記事を編集して作成したものです。

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